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東京以外の劇団からの〈発信〉
 
画一化された演劇が持て囃される東京。その地から離れてあえて世界に飛び出し、日本の各地で拠点を構える4劇団。世界の演劇に触れ、東京の常識とは違う地域に立脚して演劇を創造していく原動力とは?その力が東京の演劇を変えていくか……!?


【三重】 第七劇場
「多色の時代へ ーそれぞれの創造活動のためにー」
鳴海康平  / 津あけぼの座 芸術監督・第七劇場 代表・演出家


第七劇場:1999年、演出家・鳴海康平を中心に設立。体験する風景としての演劇性を示す作品を製作。これまで国内15都市、海外4ヶ国6都市で作品を上演。代表・鳴海が1年間の滞仏(ポーラ美術振興財団在外研修員・2012年)から帰国後、2014年より三重県津市にあるThéâtre de Bellevilleのレジデントカンパニーとなる。http://dainanagekijo.org


  私たち第七劇場は東京を拠点に日本各地、海外で公演をしてきましたが、より良い創造環境と、観客や地域との新たな関係を求めて、私の1年間の渡仏(ポーラ美術振興財団在外研修員・2012)以前より、活動拠点の移設を考えていました。その折、三重県文化会館と特定非営利活動法人パフォーミングアーツネットワークみえとの官民協働での舞台芸術振興の姿勢に感銘を受け、帰国後の2014年、三重県津市美里町に活動拠点を移設しました。
 

  陶芸家や画家が大都市を離れた土地に居を移し創作活動をしたとしても、その「移動」というトピックが演劇ほど大きく考えられることはありません。陶芸家なら窯という製作の心臓ともいえる設備や、画家なら描く対象などという、創作活動に不可欠なものの有無や、適するかどうかなどの条件が想像しやすいからでしょう。では、どうして演劇では移動が興味をそそる要素になりやすいのでしょうか。それは演劇をはじめ舞台芸術が持つ上演という作品形態が陶器や画布とは大きく異なる特徴を持つことが関係しているかもしれません。当然ながら、この違いは表現形態によるもので優劣の話題ではありません。ただ、こういう違いが影響して、大都市という人口的・文化的に密度の高い場所からの「移動」が、演劇においてはー潜在的に「適所から外への移動」というイメージをともなってー小さくないトピックになりえるのでしょう。

  この無意識に潜んでいるように私には思える「外への移動」というイメージは、ここ数年でも変化が大きくなってきましたが、それぞれの表現者にとって「より適する場所への移動」というイメージへともっとはっきりと変わっていくだろうと思います。たとえば、陶芸家にとっての窯は、演劇人にとっては劇場であるといえます。もし創作活動のために自らの窯/劇場が必要だと考えるならば、それを求めて行動するのは自然な流れであり、同時に描く対象やより良い活動環境を求める動機は、画家のなかだけではなく演劇人の中にもやはり存在します。

  私たち第七劇場にとって拠点劇場は、創造活動に欠くことができないものです。それは私たちにとって、メンバーだけではなくさまざまなひとが集まる家であり、表現やその可能性を守る城であり、作品づくりに集中する工房です。幸運にもたくさんの方のご協力をいただき、私たちの心臓となる空間をセルフビルドで拠点劇場 Théâtre de Bellevilleとして改装できたことは、とてもしあわせなことです。

  私たちの場合、創造活動をすること自体は東京を拠点にしていたときと何も変わりません。作品を国内外で発表することも変わりません。しかし、創造活動の質や幅において向上しました。それは私たちの尺度においていえることです。拠点劇場と俳優の存在、劇場の規模、大都市のリズムとは異なる創造・発表のサイクル実現も重要な点でしたが、これら以外に、創造活動のために生活も含めて環境を変えることで体感をもって視野を広げること、創造活動をとおして劇場に来てくれるひとたちの人生にコミットできている実感が得られること、これらも「より適する場所への移動」を求める要因でした。また、冒頭にあげた三重県の官民協働による文化振興が幅広いチャンネルをもって精力的になされている姿に強い魅力を感じたことも拠点移設に決定的に作用しました。


第七劇場日仏協働作品『三人姉妹』


  「大都市でなくてはならない」という見えない束縛が緩みはじめているのはまちがいありません。さまざまな表現者が大都市の持つ性質とは別の基準を選び、自身の創作活動のために移動しています。ここ数年で特にその動きが活発になっていることは、多くの地方都市で在住表現者や文化に携わるひとたちによる堅実な活動が結実してきたことと、大都市の表現者がより適する環境や新たな基準を選ぶことと相まって起きている潮流だと感じています。

  もちろん、大都市(私にとっては以前拠点としていた東京)には、劇場や、教育機関、研究機関も多く、人口の多さに加えて広く演劇分野に関わっているひとの絶対数が多いことから、作品製作や発表の場、集客、多様な劇場体験の得やすさにおいても合理的ですし、表現者にとってはさまざまな種類のステータスを得るためにも有効な点が多いのも事実です(そのステータスがいったい何なのかの疑問は別にして)。

  舞台芸術は、基本的には複数の人間によって準備され、「この時間・あの場所に行かなくてはならない」ために場所と時間の拘束を強く受ける上演という形態で、生身の人間が生身の人間に見せる、という特徴を持ちます。言い換えれば、簡単に持ち運びもできず、個人的に所有することも難しく、ひととひとがその場に居合わせなければならない人間臭い表現形態です。この人間臭さのせいでギリシャ時代から続いているのも頷けます。その意味で舞台芸術が人間が多い都市に集中するのは、極めて人間的な営為である証拠であるともいえます。では大都市以外の地域では舞台芸術は成立しないかといえば、そんなはずはありません。舞台芸術が人間的営為であるならば、どの地域においても舞台芸術の必要性と(大都市とは異なる)発展性があります。

  私たちの拠点劇場は津市の中でも中山間地域に近く美しい自然に囲まれた地域です。そこでの創作や、地域の方との距離の近さ、作品を通しての率直で新鮮な歓談、劇場で実施している舞台芸術以外の子ども向けのプログラムや映画上映会、地域の子ども劇団やお祭りへの参画などの新しい取り組みや環境変化は、私たちの表現に大きな刺激となり、発見と表現の幅を与えてくれています。また、生活も大きく変わり、周囲に流れる情報の量や質も変わりました。劇場や創作のために動く時間が増えたとともに、自然という大きな存在を実感する機会が増え、上演のために接するテキストの読み方や、劇場で観劇したときなどに、肌が反応するような体験を得られることが多くなったのは、表現者として興味深い変化のひとつです。

  私たちは国境を越えられる作品製作をポリシーに、主に古典や世界的名作を取り上げ、物語だけに頼らず俳優の身体表現や舞台空間のつくり方も工夫することを重要視した作品を製作してきました。これは舞台表現の特性を活かしたひとつのスタイルですが、テレビドラマのような親しみやすさとは質が異なる場合があります。国籍を問わず観客個々に何かしらの劇的な体験を産む作品の創造は、人間が持つ普遍的な感情や問題、自然との関係を表現することで実現できると、私は考えています。舞台作品にも料理の味わいやこだわりと同様に相性があるのは事実ですが、人間が抱える普遍的な性質や問題を扱う面と、舞台表現の可能性を活かすことの両立に、私たちの表現者としての目標のひとつがあり、拠点移設後の活動の中でより明確に挑戦できると感じています。

  とても先鋭的な作品でも、約4000万人が住む関東で20万人に1人が劇場に来るだけでも200人になりますが、同じ割合で考えると三重県では10人です。人口規模が違うという理由だけでこの差をやり過ごすことはできません。200人に劇場へ足を運んでもらい、同時にその中から劇場文化により親しんでもらうひとを増やすためには、少なくとも私たちの創造活動においては先にあげた両立が必要であり、その基準がシビアに浮かび上がります。つまり私たちの目標と作品という結果が、より問われることになるのです。

  作品だけではなく、母数が少ない条件での次世代の育成、地元や他地域の表現者の支援や協働、地元地域との連携、国際共同や交流など、それらの活動をとおして見える地域の性質や特徴が、私たちの創造に広がりを与えてくれます。そして大都市では麻痺しやすい文化に関わる者としての意義と価値を自明のものとせず、シビアに問い続ける現実性が、表現者としての私にとって甲斐ある人生につながると感じています。

  大都市もひとつの地域として考えれば、それぞれの地域において異なる性質や基準があり、それぞれの環境と条件に対して、それぞれの表現者が自身の創造と照らし合わせて活動場所を判断する趨勢はこれからも高まっていくでしょう。



次回公演
Théâtre de Belleville 16 春シーズンプログラム
第七劇場 『オイディプス』

日程:2016年5月1日(日)〜4日(水)
場所:Théâtre de Belleville




[artissue FREEPAPER]

artissue No.006
Published:2016/01
2016年1月発行 第号
特集・東京以外の劇団からの<発信>

第七劇場(三重) 「多色の時代へ ーそれぞれの創造活動のためにー」
百景社(茨城) 「今まで 今 これから」
劇団アンゲルス(石川) 「地方からの発信=金沢」
風蝕異人街(北海道) 「地方からのアングラ的演劇方法の発信」



 

「飼いならされていない身体の表明」 原田広美
「哲学を生きることのぎこちなさと驚き」 坂口勝彦
「唐十郎は生きている。」 うにたもみいち


 
「縁側」 杉田亜紀 ダンサー・振付家
「いまを生きる僕を」 陳柏廷 / TAL演劇実験室 主宰