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東京以外の劇団からの〈発信〉
 
画一化された演劇が持て囃される東京。その地から離れてあえて世界に飛び出し、日本の各地で拠点を構える4劇団。世界の演劇に触れ、東京の常識とは違う地域に立脚して演劇を創造していく原動力とは?その力が東京の演劇を変えていくか……!?

【石川】劇団アンゲルス
「地方からの発信=金沢」
岡井直道  / 劇団アンゲルス 代表・演出家


劇団アンゲルス:1996年創設。プロ・アマ、年齢、学歴、性別、国籍等を問わず、様々な才能が、金沢市に集まり地域在住型の劇団として活動を続けている。2000年より東欧諸国(ルーマニア=シビウ,バカウ、モルドバ共和国、ウクライナ)、ロシア(モスクワ、イルクーツク、サハリンスク)さらに2007年からは毎年、韓国の地域劇団(春川市)との交流を実現している。毎年開催している〈いしかわ舞台芸術祭〉を主体的に進めている。www.theater-angelus.com


     



  1970年頃から30年近くは、東京の“専門劇団”に在籍し演出部員として東京公演は勿論、日本国中を駆け巡っていた。20世紀後半はこの国の経済成長期。そしてバブル、オイルショック、その後の経済停滞不況期を、稽古場と各地の劇場、体育館、それに様々な宿・・を巡り駆け抜けてきた。無我夢中で走り続けていたように思う。毎日体力の続く限りぶっ倒れるまで意気軒昂に!・・生きていたと思う。勿論、金銭的には食うにギリギリ、東京に戻って家賃を払えばもう財布は空っぽ! でも次の旅がまた始まる・・北から南へ! 精一杯生きることの“充実”を味わっていたのだと思う。

  世界は、1990年前後に大きく変わった。驚くべき変化が起こり出していたのだ。ソ連や東欧社会主義国家の崩壊、ベルリンの壁が開かれ“東側”から多くの人々が“西側”に流れ込んでいた。あれよあれよと思う間に世界が変わっていく、そこには、この先どうなるのだという不安と、この変化に歓喜し興奮する人々の熱気と歓喜が同時にあったように思う。私は、「こうしてはおれん、世界の変化をこの身で知りたい!」そう思うと、いてもたってもいられなくなって文化庁の〈在外研修員〉制度に応募し、間も無くベルリンへすっ飛んだ。

  ベルリンは、壁の崩壊から2年近く経っていたが、まだまだ旧東側は西ベルリンとは明らかに違う様相だった。毎日、新聞やタウン誌で演劇情報を調べ地図を片手にベルリン中の劇場を訪ね歩いた。冬にかかり零下15度にもなる暗い街をうろつき回り、怪しげな地下劇場や崩れかかったビルの一室にもたどり着いた。穴を穿ち色を塗り旗をはためかせ歌を謳い躍るものたち! 夢のような不思議な空間だった。夏の夜、夕方が夜の10時頃まで続く黄色い夕日のなか、広場や路地を歩き回り劇場を訪ねた。人々は今ここで、自分たちを確かめようとするかのように“演劇”を創っていたのだ。そこには、不安と焦燥があり、創り出すことで“なんらかの確認”を得ようとしていたのかもしれない。ベルリンでは多くの不思議な作品に遭遇したが、その多くに“リアルな本物”を感じていたように思う。私は、1年間の研修なるものを終えようとする頃、ベルリーナ・アンサンブルで2ヶ月間、H.Muellerの新作に参加することができた。ドイツ語はほとんど判らなかったが、この稽古場では、毎日作品が解体され“現在時の本物”に向かって繰り返し繰り返し試行錯誤を続けるという“誠実”に出会った!・・と思っている。

  帰国後、私は胃癌が結構進行しており手術。15kg痩せたがなんとか生き延びた。・・しかし事はうまく重なったのだ・・・ベルリンと癌のおかげで、体も心も“ピュア”に生まれ変わり、リセット・・・ある日突然、「東京はもういい、地域に行こう!」と思い立ったのだった。

  金沢市は私の故郷、大学卒業時までこの街に住んでいた。胃の全摘出手術を終え、やせ細って文字通りふらふらしていると、かつての友から「今度〈金沢芸術村〉という施設が出来るが、その開村時に作品を創らないか?!」という誘いを受けた。


〈金沢芸術村〉

  これが新たな“始まり!”となった。何よりも「24時間使用可能な公的施設」というのがすごい!日本で初めての“画期的な出来事”なのだ。地域演劇では、そこに関わるものの多くは昼間働いている。昼働いて夜稽古、というのが当たり前なのだ。ところがこの国では、各種会館施設、公民館等は遅くても22時には退出しなければならない。これでは稽古や本番がうまくいかない。それがこの金沢で24時間使用可能な施設ができたのだ・・私は俄然やる気になった! この地で自由な作品創りをやろう・・もう東京にいる必要はなくなった。その後は東京と金沢を行ったり来たりしながら、いく本かの作品を創った。しかしほどなく・・・やはり“たいくつ”が始まった。地元にも相当数の演劇人はいる。演技の実力もそこそこ立派なものだ。・・・でも何かが足りない・・多くの演劇する人は“己の楽しみ”のためにやっている・・のか。仕事の後、ウインドウショッピングやレストランでの食事、酒場で酒を飲み、カラオケボックスで歌を歌う・・その楽しみよりももう少し面白い事を“演劇”に求めているのか・・そんな印象を持った。妙に明るく楽しげで、居心地がいい世界、そんなグループが目に付いた。私にはなんだか居心地が悪い。

  グループを立ち上げて5年が経った頃、幾人かの若い者たちは東京へ出て行った。本格的に演劇をやるならやはり東京なのだ。私の1970年当時と状況はたいして変わっていなかった。地方では中途半端、アマチュアで終わってしまう。プロ、アマチュア論議はともかく、全存在をかける仕事として“演劇”を選ぼうとする者にとっては、金沢の演劇界は全く中途半端だった。で、わたしは改めてここ金沢の地で本物を作るにはどうしたらいいのかを考え、動き出した。「東京が全てではないだろう・・だったら世界に出て行こう。世界の演劇界で勝負しよう!」と呼びかけたのだ。地元の劇団員はほとんどが“愛すべきど素人!”。この地元メンバーとともに、東京時代一緒にやっていた役者や裏方たちが文字通り手弁当で加わり作品を創りはじめた。この間東京組は、我がボロ家にごろ寝をし、飯を炊きまさに寝食を共にして稽古を続けた。そして2000年。ルーマニアとモルドバ共和国の国際演劇祭に応募し、とうとう“海外公演”を実現したのだ。国際交流基金から100万円余りの補助金をもらったが、旅費はそれぞれが1年間かけて15万円を貯金した。勢いのあるときは凄いもので、この第一回海外公演には30人が参加した。今考えてみると、ヨーロッパ最貧国と言われたモルドバ共和国やルーマニアがこの大所帯をよくも受け入れてくれたものと思う。彼らの心意気にいまでも感謝している。この公演がきっかけで、ウクライナやモスクワ、ルーマニアのバカウ市などの国際演劇祭から招聘が届き、それぞれの地で公演を果たしてきた。2000年始めの頃は、このスタイル「東京組と金沢組の混成チーム」で作品を作り“海外公演”に出かけて行った。地域にありながら“国際演劇祭参加”というのは中々ユニークな存在だったのか、当時はいろんな才能がここに集まってきた。

  活動が活発になると、改めて“地域”が持つメリットが意識される。まず「家賃がやすい〜比較的広めの空間が見つかる」。「地元住民の協力が期待できる〜衣装や各種素材、食べ物等の提供があることも」。「新聞、テレビ等のマスメディアが協力的で情報発信をしてくれる」「様々な空間が比較的簡単に劇場として使える」「地域には多くの才能が手付かず眠っている」等々。

  一方、“才能”はどこの地にも同じように在るのだが、そのタレントをさらに実あるものにすることができていない・・これは地域最大の問題なのだ。 地元大学に「演劇学科」を! 演劇専門劇場を! ・・・当初、私は、何度も企画書を持ちお役所を訪ねたが、まあ・・相手にされなかった。価値の定まっていないものを援助するということに慣れていないお役人たち! いずれの地方でも似たような状況だと思うが。  ここ数年、世界では、息苦しいほどの経済の激化、停滞、硬直化が進み、もはや軍事的、金銭的パワーバランスだけではやっていけなくなってきているようだ。そのためなのか、ようやくこの国の中からも、風土で育った“地域文化”の力とその必要性に気づくものが現れてきたように思う。

  僕たちの〈劇団アンゲルス〉は、韓国の地域劇団と10年近く相互公演、劇団員交換レッスンを続けてきた。それは、都市化が進む東京ではなく、ソウルではないものを作り出すということに繋がっている。まだかすかに残っている“臭い”のようなものを纏ったものたちが創り出す演劇が 現実味を帯びて求められているのだと思う。地域の演劇には、まだまだ克服しなければならない課題は多いが、経済効率優先の世界では見えない、生きるものたちの演劇が、世界中の“地域”で創られている・・・地域演劇は、25年前のベルリンの「夢のような“隙間”」に生まれた“創造物”に通じており、工夫と自由な可能性が新たな情熱を生み出すことを日々実感し、この地を選んでいる。


次回公演
〈世界の小劇場作品〉
日程:2016年2月から毎月最終 金,土,日曜日
会場:新AnStudio





[artissue FREEPAPER]

artissue No.006
Published:2016/01
2016年1月発行 第号
特集・東京以外の劇団からの<発信>

第七劇場(三重) 「多色の時代へ ーそれぞれの創造活動のためにー」
百景社(茨城) 「今まで 今 これから」
劇団アンゲルス(石川) 「地方からの発信=金沢」
風蝕異人街(北海道) 「地方からのアングラ的演劇方法の発信」



 

「飼いならされていない身体の表明」 原田広美
「哲学を生きることのぎこちなさと驚き」 坂口勝彦
「唐十郎は生きている。」 うにたもみいち


 
「縁側」 杉田亜紀 ダンサー・振付家
「いまを生きる僕を」 陳柏廷 / TAL演劇実験室 主宰