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日本版「アーツカウンシル」のそもそも論

~アーツカウンシルの現場に聞く「アーツカウンシルとは何か?」~
interview with 石綿祐子 アーツカウンシル東京 室長・プログラムディレクター


石綿祐子Yuko Ishiwata
(株)社会工学研究所(主任研究員・芸術文化研究室室長)にて,世田谷パブリックシアター
基本構想・基本計画,長野県立松本文化会館基本構想,三重県立芸術文化会館基本構想,(財)地域創造人材育成プログラム「ステージ・ラボ」立ち上げなど,文化政策関連プロジェクトに携わる。その後,広告代理店にて,消費者インサイトやトレンド研究に従事,世代分析,富裕層分析などの他,自動車,飲料等の商品開発,またメディアの動向および国内外の広告市場の分析に携わる。2012年5月より「アーツカウンシル東京」準備機構,11月より「アーツカウンシル東京」プログラム・ディレクター

アーツカウンシル東京とは
アーツカウンシル東京は,東京における芸術文化創造のさらなる促進や東京の魅力向上を図ることを目的として,公益財団法人東京都歴史文化財団の中に,2012年4月に準備機構が設置され,11月に「アーツカウンシル東京」として正式発足。助成事業をはじめ様々な事業を通じて,国際都市東京にふさわしい個性豊かな文化創造や,創造性に満ちた潤いのある地域社会の構築に貢献していく。また,芸術文化の自主性と創造性を尊重しつつ,専門的かつ長期的な視点にたち,新たな芸術文化創造の仕組みを整えていく。











「アーツカウンシル」って知ってますか?
「アーツカウンシル」は日本でも近年確立に向けて導入された英国発祥の文化支援の専門機関です。一時は活発に議論されていましたが今では忘れ去られてしまったかのよう。アーツカウンシルが導入されてどの辺が変わったのかイマイチ実感が無いというのが大勢の感想なのでは。今回は国内初の組織として設置された「アーツカウンシル東京」で日本におけるアーツカウンシルについてお話を聞いてきました。今更ではなく今だからこそ。アーツカウンシルをイチから問い直します。(聞き手:林慶一)


2011年2月に閣議決定された文化庁の第三次基本方針では「諸外国のアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入する」との文言が加わり,「日本版アーツカウンシル」と呼ばれる体制の確立に向け国の文化政策としての取り組みがスタートしました。
実演現場としては,前提となっている「諸外国のアーツカウンシル」がどのような仕組みであるかや,具体的に何が変わるのかなどの情報が未だに行き渡っていないので行政側との温度差があるような印象です。まずはこの「アーツカウンシル」がどのような制度なのかを教えてください。

  アーツカウンシル東京が設立されたいきさつは文化庁の第三次基本方針と恐らくはそんなにはリンクしていなくて,もともとアートマネジメント研究者,ニッセイ基礎研究所の吉本理事などの,アーツカウンシル・イングランドのような機構が必要だとおっしゃっていた方々が様々な場面で提言されていたのです。東京都では,石原前都知事のときに東京芸術文化評議会という知事の諮問機関での議論の中で,企業メセナ協議会の福原義春名誉会長がやはりそういう機関をつくるべきだとずっとご提言されていて,おそらく文化庁の検討とほぼ並行するカタチで話は進んでいたと思います。文化庁の場合,芸術文化振興基金の助成事業の調査・評価をされているプログラムオフィサー(以下PO)は非常勤なんですよね。だからそういう意味でアーツカウンシル東京が日本で初めてと東京都が言ってるのは,(専門職員を)常勤という形で組織としてつくったところなんです。

では,そもそも「日本版アーツカウンシル」として語られてはいても,文化庁の場合は「アーツカウンシル」を仕組みとして部分的に取り入れている段階という事ですね。

  これから先どういうふうに組織化していくかというのが文化庁としての課題だと思います。

わかりました。ではその「アーツカウンシル」というのが何なのかということも含めて,アーツカウンシル東京設立の経緯などについて教えてください。

  私も実際には当初からの経緯を充分知っているわけではないのですが,2006年頃石原都政のもとで「東京の文化政策を語る会」という,先ほどの東京芸術文化評議会の前身があって,その中で,アーツカウンシルの設立は提言されてるんですよね。それを引き継ぐかたちで東京芸術文化評議会として国及び都の文化政策に関して「文化芸術の力で日本にクリエイティブな活力を」という提言をされたというのが2010年です。一応その中で,国と地方が各々の縦割りのミッションを超え,更に官民の協力を推進する仕組みづくりということで,アーツカウンシル構想がまたここでも提言されていると。その流れを受け,2011年に発表された東京都の長期計画の中に,短期達成目標としてアーツカウンシルの設立が明記されています。ある意味,検討には時間をかけていると思います。

ネットTAM(アートマネジメントに関する総合情報サイト)に掲載されていた石綿さんが書いたコラムを拝読しまして,アーツカウンシル東京は「100%行政組織」で,アーツカウンシル・イングランドがモデルだがそもそも異なっていて,独自の在り方を模索しなければならない,と仰っていました。そこでの英国との違いと,東京都独自の在り方というのはそれぞれどのようなことを考えていますか?

  まず英国のアーツカウンシル・イングランドの場合は,あくまでも独立組織なのです。公営宝くじの収益と中央政府からの公的資金が入ってきて,カウンシルという組織そのものが英国政府の機構としては中立的なところがあって,アームズ・レングスという,行政と多少距離をおいて,政策提言・芸術文化支援をしていく原則が一つの特徴なのです。東京の場合はあくまでも東京都歴史文化財団の中の1セクションという形で設立されていて,独立した組織ではないです。だからこの点がどうしてもアーツカウンシル・イングランドとは多少立場的にも違っているところです。アーツカウンシル設立を色々推進されていた方はやはり独立した組織であるべきという話はされるんですけれども,現状では独立した組織を一つ立ち上げるというのは今の行政のスリム化の流れの中でハードルが高いという判断で,東京都としては財団の中のセクションとしてとりあえず,まず組織を作ったという背景があります。

なるほど。ではアーツカウンシル東京の母体となっているこの東京都歴史文化財団は東京都とどのように関わった組織なんでしょうか。

  基本的には東京都の文化施設の管理運営を行う財団です。管理系の幹部職員はみな東京都からの派遣の方ですし,予算もほぼ100%都からの資金ですし,東京都の組織と考えていただいてもいいかと。
  それで,実はさきほどの東京芸術文化評議会というのは英語では「Tokyo Council for the Arts」というのです。「Council」として評議会があり,アーツカウンシル・イングランドに近いのですが,この東京芸術文化評議会はあくまでも諮問機関で,ここで提案されたものを実行する機能として,このアーツカウンシル東京ができたという位置づけはあります。

そうすると東京都の場合は,アーツカウンシル東京と東京芸術文化評議会を併せて,ひとつのアーツカウンシルとして機能するという風に理解するべきでしょうか。

  1つになってというほどではないです。立ち上げの事業は東京芸術文化評議会での提言を柱にしていますし,当然,東京芸術文化評議会で提案されたことをアーツカウンシル東京で受ける場合もありますが,現実的には東京都の文化政策セクションとの連携が強いですね。要するに当カウンシルの予算を確保するのは東京都の担当セクションになるので,やっぱりそこはアームズ・レングスという形とはちょっと違いますね。
 アームズ・レングスということでいえば,アーツカウンシル・イングランドはロイヤル・チャーター(国王に承諾された特許状)による女王陛下の任命組織ということもあります。ガバメントとはちょっと一線を画せるというか,それなりの権威づけがされているところがあって,やっぱりそれは日本だとなかなか難しいのかなって。英国の独特の行政の考え方というか。アーツカウンシル・イングランド以外にもブリティッシュ・カウンシルも同じような組織ですよね。やはりそれは英国独特の行政の考え方なので,それを日本にそのまま導入って言うのはちょっと難しいのかなって思います。もちろんアーツカウンシル東京も,助成事業を中心に独立した組織になっていくことは当然将来的には考えられる話ではあります。

アーツカウンシル・イングランドの場合も基本的には助成事業が中心になるんでしょうか。

  400人強くらいの組織で,地方に対してもブランチ(拠点)を持っていて,資金提供は重要な役割の一つになっています。3つの事業の柱がありますが,助成というよりは投資という発想で,3年間サイクルで全国の文化機関に対する長期助成などがあります。もちろん公募型の助成もあります。あとは特定の戦略的な取り組みに対する助成などです。

アーツカウンシルの理解にあたってつまずきがちなのが,諸外国でのアーツカウンシルというのが,日本芸術文化振興会のように,金銭的助成事業に限ったのではないという点があると思いますが,そのあたりはどうなんでしょうか。

  ケースバイケースだと思います。エデュケーション・プログラムみたいな事業を実施していたり,それぞれの組織で,多様な取り組みがあります。アーツカウンシル・イングランドなども,芸術文化団体に対する助成も,赤字補填や支援というよりは,戦略的に投資として考えているようです。

アーツカウンシルといっても立場や役割も様々でこれと決まった仕組みではないということでしょうか。では,日本でアーツカウンシルが必要だというふうに言われるのはなぜなんでしょう?アーツカウンシル東京さんの設置の経緯にも関わっていると思いますが。

  やはり新しい発想の文化政策への期待が大きいということでしょうかね。

今までも東京都は文化芸術に対する助成事業をやってましたよね。そこからアーツカウンシルを設ける理由と言いますか。

  アーツカウンシルを設けたのは助成事業のためだけというわけではないと思います。劇場や美術館といった文化施設の運営というのはそれぞれ専門家が入ってやってますけれども,文化政策自体はあまり専門家がまわしていくことはなかった。当然アドバイザーや委員として専門家がかかわることはありますが,やはり政策を進めるうえで芸術文化の現場もある程度わかる専門家が必要ということは,ずっと言われていたところはあると思うんですよね。

つまり外部の機関からの助言はあるけれども,実際に運営する組織内の専門性についての問題意識から始まっている?

  結局行政の担当者って2,3年でどんどん異動してしまうじゃないですか。だから例えば人的なネットワークをつくろうと思ってもそれは蓄積されないし,ノウハウも蓄積されないし,結局それで行政サイドがなかなか変われないというジレンマがきっと周辺の関係者の中にあったのではないかなという気はします。

そのアーツカウンシル東京の体制についてですが,機構長がいらっしゃって,PDとして石綿さん,そしてその下にPOと,いうことで理解しているんですが,ここでのPO・PDは日本芸術文化振興会で導入されたPO・PDとはまたちょっと違うように見えますが。

  資質的にはアーツカウンシル東京も日本芸術文化振興会も皆さん専門家ですから同じなんですけど,やはり組織として動いているかどうかは違うかなと思いますね。当カウンシルは組織として,常勤という形ですので,現場のいろいろな文化団体とのネットワーク,パートナーシップはなるべくきめ細やかにつくっていこうとは思っています。また,カウンシルとしての事業の考え方や助成の在り方をみんなで検討し悩みながら進んでいます。やはり助成と他の支援事業をしていくという点では違うかなと思います。日本芸術文化振興会の場合はあくまでも非常勤という形で対応されていて,助成事業だけなので,組織としての,ネットワークや関係性づくりは難しいような気はします。あと,実際には助成されている数多いですから,全国でしょう。そう意味では,大変な作業されていると思います。

カウンシルボードというのは。

カウンシルボードは基本的には機構長のアドバイザー機関ということで,カウンシルとして事業全体のミッションはどうあるべきかといった理念的な部分の議論や,助成の採択案に対しての承認などをしていただいています。本来,アーツカウンシル東京が独立した組織であれば「カウンシルボード」はいわゆる理事会にあたり,かなり決定権もあるし発言力もあるのですけれども,アーツカウンシル東京は東京都歴史文化財団の一組織なので,基本的に組織の上に財団の理事会があるのです。だからそこは少し微妙で複雑,要するにカウンシルボードがあって,でも実際には理事会があるというところで,ダブルガバナンスのようになっています。

例えば,日本芸術文化振興会だと,その,専門委員があって,部会があって,運営委員ですよね。

  そうですね。

で,その専門委員が審査・選定をして,部会から運営委員の審議で最終的に決定するような体制だと思うんですけれども。

  当カウンシルは基本的に内部で審査・選定を全部やっています。審査のプロセスでは提出された申請書類をアーツカウンシル東京が精査して,事前調査や有識者の意見・アドバイス等を踏まえて評価案と採択原案をまとめます。採択原案を機構長がカウンシルボードに諮問し,カウンシルボードの審議・答申を経て,その結果を機構長が最終的に決定するという流れになっています。

なるほど,そうなってくると,東京芸術文化創造発信助成では審査をどのようなことでにされていくのか。やはり実演現場としては審査の仕組みに不信感を感じている団体が非常に多いと思うんですね。何を誰が審査しているかがわからないということで。日本芸術文化振興会の場合は批評家だとかのいわゆる専門家に当たる方々が活動を審査するということで実演家の溜飲を下ろさせているような。

あとまあ運営委員会ですね。

で,それでも不十分だという事で,PO・PDを配置した,というような見方もあると思うんですね。そういった面でアーツカウンシル東京が,助成事業を審査するうえでの専門性っていうのをどのように担保するのか。

   少なくともまずPOはみんな専門的な経験があるメンバーですので,そこは1つ担保されているということと,あとは申請団体に関して,大体は申請団体の活動状況を把握していて,これから申請がありそうな新しい活動についても,チェックするようにしてるんですね。現場に関しては非常にコミットメントしていると思いますし,POが主に選考書類等を精査しますけれども,さきほど申し上げたように有識者の先生にもアドバイスをいただいています。それは各分野2名ずつぐらい,評論家の方とか研究者の方とか,ただそれは選考会ではなく,アドバイスをいただいて,そこでまた精査して最終案をつくるというプロセスにしています。


有識者の先生というのはカウンシルボードとは別なんですか?

  違います。カウンシルボードはそういう専門の選考会という形ではないですね。芸術分野の専門の方ばかりではなく,文化人類学や経済の専門の方もいらっしゃるので,都市や社会といった,よりひろい視点でご議論いただいています。助成の助言をいただく有識者の先生には,それぞれ個別にお話しをうかがっています。

そのあたり,先ほどもおっしゃっていた,「専門家を常勤で配置」するということ。アーツカウンシル東京設立直前の東京芸術文化評議会などでも重ねて強調されていた要素だったと思います。それは助成事業においてカウンシルの中で審査もできるということも含んでいるわけですよね。それはおそらく英国もそうなんだと思うんですけれども。

  そうですね。

それがなかなかこう,外からはちょっとした不信感のようなものを持ってしまう。日本芸術文化振興会の専門委員と違って経験があると言ってもその程度や質が分からない。先ほど専門性が担保されていると言っていた部分ですね。

  それはそうかもしれないですね。組織体制として,カウンシルボードの委員の名前等はホームページで公表しています。採択結果や概況も公表していますので,その結果や考え方でご判断いただければとも思います。まだ体制も未成熟なところがあることはたしかです。

かつて東京都が行っていた「東京都芸術文化発信事業助成」は日本芸術文化振興会でやってるような,審査の体制に近かったんですか。アーツカウンシル東京に移管されて変わったんですか?

  以前は選考自体はオーソドックスなやり方です。専門家の選考会があって,そこで審議し決定していました。選考会がすべて外部の方だったので,そのプロセスの中で,芸術団体と東京都がネットワークをつくっていくという発想はなかったと思います。アーツカウンシル東京ができて,助成事業を通して各団体と,なるべく直接会っていろいろと情報交換させてもらい,ネットワークをつくっていく,パートナーシップをつくっていくという点はかなり違っていると思います。

なるほど。では現行の助成事業の体制について,まずは助成の方針についてお伺いします。日本芸術文化振興会を例にとって言うと,主として「トップレベルの舞台芸術創造事業」と「日本芸術文化振興基金事業」の二つがあって,トップレベル…の方は基本的に大規模向けで対象経費に対しての助成です。一方の基金事業の方は原則が収支の赤字補填になります。その両輪で(上手くいっているかどうかは別にして)多様な規模の活動をカバーするようになっているのだと思いますが,アーツカウンシル東京の助成事業はどのような助成・支援を考えているでしょうか。

  ある程度予算が限られているということで,どうしようか,どこに軸足をおこうかと当カウンシル内で議論を重ね,また,いろいろな方にご意見をうかがって,ベテランの芸術団体は国からの支援もあるので,若手から中堅の,あと一押しで次のステップに上がれるといった段階の団体を中心にサポートしていこうという方針にしています。一方でベテランに関しては,例えば若手育成・後進の指導とか,業界全体の振興といった視点の企画を採択させていただければと思っています。ベテランの方々の案件を採択すると,結局若手に支援がまわらなくなってしまうということもあります。これはあくまでも基本方針で当然ベテランの方をサポートすることもあるんですが,原則としては若手・中堅支援ということを主眼にしていますね。当然ベテラン勢の申請が多い時もあれば,実験的なものばかりのときもありますし,分野によってもかなり違いますが心づもりとしてはそういうところです。

(ダンス・演劇などの)分野ごとに?

  分野もあるし,時期もありますね。あとは,制作者の育成プログラムとか,芸術家のための支援プログラムなど,公演や展示以外のそういう周辺事業もなるべくサポートしていこうという形にしてます。

助成事業以外にも,「パイロット事業」あと「企画戦略事業」があるようですけれども,「パイロット事業」というのは,やはりアーツカウンシル・イングランドのそれがモデルになっているんでしょうか。

  基本的には,実験的な事業をやっていくということで,特にアーツカウンシル・イングランドをモデルとしているほどではありません。例えば,芸術文化を地域に対してどうひらいていくかとか,観光政策とどう結びつくかとか,そういった芸術文化の新しい価値を高めるといった視点で実施する事業という整理の仕方をしています。ただ現行のものは,カウンシルができる前に予算が組み立てられたものが多いので,東京都から大まかな方向性が提案されたものです。カウンシルとしては実際2年しか経ってないので。これから先やはりオリジナルで,例えば芸術創造の課題解決のためにはこういうプログラムがあった方がいいんじゃないかとか,東京都に提案しながら立ち上げていければと思います。


★ここからは誌面未掲載分です



アーツカウンシル東京事業概要(公式HPより)


「隅田川ルネサンス」は都で行っていた既存の事業ですか?

  「隅田川ルネサンス」は東京都が隅田川を中心とした水辺空間におけるにぎわい創出に向け,地元区や関係団体等とも連携して進めている取組であり,我々が実施しているのは,その中の文化の事業ということになります。東京都からの要請があってそれを受けています。ただ例えば「クリエイティブ分野支援事業」,これは映像,アニメやデザインやデジタルといった分野を支援する事業ですが,これはカウンシルからこういったプログラムをやっていきたいと東京都に提案して実施しています。実施しているのは,レクチャーやシンポジウムなどですが,いろいろとプロジェクトは立ち上げていきたいと思っています。

主に,アニメ?

  今はそんなことはないです。この間は初音ミクをテーマにレクチャーを開催しました。それはもうケースバイケースですね。

これは設立からずっとやっている?

  これは事業フレームとしては当初からあります。詳細なプログラムの中身については,適宜組み立てています。「パイロット事業」は,一応3年ぐらいを目途にやっているので,色々組み替えたり,それは検討していくことになりますね。

「隅田川ルネサンス」などは,いわゆる自治体の従来型の事業のように感じていましたが,経緯が理解できました。「パイロット事業」として,他に「アーツアカデミー」がありますが,どのような取り組みでしょうか?

  「アーツアカデミー」は,若手の制作者や研究者の人達に,助成プログラム(東京芸術文化創造発信助成)の調査員を委嘱しています,調査員は今8名で,音楽,演劇,舞踊,美術などの,それぞれの現場で働きたい,あるいは文化政策に興味があるような人たちを集め調査業務と研修を行う1年間のプログラムです。研修といっても,(アーツカウンシル東京の)助成事業のサポートという位置づけがあります。というのは実際に採択したもの,あるいは不採択だったものもなるべく現場に足を運ぶようにしています。それはPOも現場に行ってるんですけれども,調査員にも観てレポートしてもらう。これから先,助成の対象になりそうな活動も注目して,それも観に行ってもらっています。あとは座学として文化行政の現場の方のお話を聞く場も設けています。とても重要なのはアカデミーの調査員は結局今の現場で働いている20代から30代の人達なので,彼らの問題意識や,彼らとディスカッションすることで,逆に我々にとって現場のニーズによりそうことができるメリットがあるんですよ。それは事業を組み立てるうえでも,これから5年10年経って,それなりに彼らが活躍できる場ができるようにしてあげたいですし。アーツアカデミーは調査員として謝礼を払うかたちにしているので,ある種新しい収入源となればと思っています。30代くらいの制作者は,やはり生活ができないと,そこで辞めてしまうことが多いと。だからある程度生活をサポートしてあげられるような仕組みができないかと,東京芸術文化評議会でそのような提言があって,それでアーツアカデミーができたところがあります。

今,3期目でしたっけ?

  3期目ですね。2年目の人たちも若干残っていますが,毎年入れ替わりがあります。

ホームページの説明では「公的機関などで業務を行うことを目指す」とありますが。

  それは将来のPOの育成なども視野に入れてという意味もあります。それと実際にその現場の人達って,他の分野のものを観る機会がないようです。だからそういう意味でも,他の分野のものを観に行く機会として,ひとつ,いい経験になっていくのかなという気はしています。

教育機関でもあり,且つ制作者の雇用機会にもなると。雇用と言うべきかわかりませんが。

  それが,ある意味パイロットなんですよね。だからそういった意味で人材育成でもあるんだけれども,新しい仕事の在り方,その実験でもあるというとこなんですよ。


アーツアカデミー事業(アーツカウンシル東京HPより)

それに関連してお話ししますが,実演家の就労環境の問題ですね。特に小劇場系では,本当に厳しい状況が続いています。

  もう20年,30年ずっと同じ議論ですね。

例えばイギリスで行われていた,「クリエイティブ・パートナーシップ」という事業は,アーティスト,クリエーターが教育機関に派遣され,ワークショップなどを通じて子供たちの教育に関わるという内容ですが、もとは「パイロット事業」だったと記憶しています。政策レベルでアーティストの雇用機会を考えると現実的な一例だと思います。東京都でも今後それに近いことを,何かやっていける可能性がありますか?

  それは,あると思います。本当にそういう,例えばアーツアカデミーでできたネットワーク,そういう若手の制作者達のネットワークを活用して,例えば東京都でやるようないろんなプログラムを彼らに託してやってもらうとか,そういう循環ができるといいなとは思いますよね。だからこの「クリエイティブ・パートナーシップ」って言うのとはちょっと違うかもしれないですが,なるべくそういった新しい仕事の機会を増やすのはやっていけるんじゃないかなって漠然とは思ってますけどね。

杉並区の一部の小中学校では課外授業,部活動を外部委託するケースもあるようです。そういう所にもアーティストの関わる余地なり,切り口があるように思います。課外授業だけでなく,ダンスが必修科目になりましたが,美術,体育,音楽の先生がいたように,ダンスの先生が学校にいてもいいように思います。都主導で教育機関とアーティストが連携するような体制を探っていけないものでしょうか。

  それは,一つの障壁になっているのは,行政の中の縦割りというのでしょうか。教育現場だと教育委員会になるのでしょうか。教育委員会と芸術文化振興のセクションは違うので,そのあいだの調整が必要でしょうね。そこがうまく連携してやっていきましょうといった話になったら可能性はあると思いますよ。

今後はアーツカウンシル東京がこういった分野にも提言し働きかけていく,そのような役割も期待していいでしょうか?

  可能性がないとは言い切れませんが…

どちらかというと東京芸術文化評議会の役割になりますか?

  そうですね。ただ,例えば現場サイドで,こういうプログラムを連携しながらやりましょうっていう形で働きかけていくのは可能だと思いますね。実際「東京文化発信プロジェクト」では,「パフォーマンスキッズ・トーキョー」など,そういったプログラムがあるので。カウンシルが直接そういうプログラムをつくるよりはNPOの活動と連携してやる形になるのかもしれないですね。

実演家の専門性を生かせる就労機会ですね。

  そういう機会を増やしていくことは,可能な話だと思います。 どうしても行政は,オーソドックスで評価の定まったものにいきがちです。説明責任があるためです。でもアーツカウンシル東京は一応,新しいことをしていきたいと思っています。

そういう意味での独立性と言いますか,固有の領域でやっていけるようにと考えておられるということですね。

  そうですね。いかに若手を育てていくかとか,芸術に支援する意味といったことを,アドボカシー,説得できるような体制にしていなければならないと思っています。まだ今の段階はアーツカウンシル東京も出来立てだから都からも大目に見てもらっているところは多々あるわけですよ。オリンピックのことも含めて議会でもカウンシルの名前が出てくることも増えているので,カウンシルの役割をかなり理論武装をしていかなければならないと思っています。行政は民間とちがって,組織の中での調整が大変です。民間は組織としてのミッションが一緒なんですよ。利益を上げようとか,組織全体が同じ目標に向かって進んでいける。行政は,いろいろな,例えば豊かな社会を作ろうといっても例えば福祉の分野と産業の分野と建設の分野と文化の分野と,様々な分野でそれぞれのニーズがあります。行政として一見,同じ方向に向いていそうで,それぞれのニーズをどう調整していくかで,行政が組織として動いてる感じがあります。

なかなかスピード感は出しづらいと。

  出しづらいと思います。トップ・ダウンというのはありますが。それぞれの目的を代表している人達が集まって,それを調整して,それで全体で前に進んでいくのが行政でしょうか。だからプロセスに時間がかかります。

英国アーツカウンシルの助成事業では申請をして数週間(実際には6週間~12週間後)で助成事業が決定すると聞きます。

  今は我々の助成プログラムは公募締め切って2か月後ぐらいで決定しています。例えば採択案が固まったとしてもそれから更に東京都で色々調整しています。

芸術文化振興基金で言えば11月に応募して決まるのはだいたい4月。東京都の場合2期制ですからまた違う所があると思いますけど。

  今回助成公募を2回にしたことと,3年間の長期助成が始められたのは,それは東京都で色々調整していただいたところがあります。

長期助成と言うのは,事業単位ではなく団体に対しての助成になるんですか?

  今のところはプロジェクトに対してです。拠点を持って年間の活動しているところをどのようにサポートしていくか,団体そのものをどのようにサポートしていくかは課題ですね。今はあくまでもプロジェクト助成です。長期助成に関しては3年間かけてどういうステップアップをしていきたいか,3年かける意味があるプロジェクトを採択するようになっています。やはり拠点的な活動をどうサポートしていくかは考えていかなければいけないところではあります。例えば,年間のプロジェクトまとめて申請していただければ,それはそれで対応できますけど,漠然と年間の運営みたいな話ではなかなか採択しづらいです。結局,経費がクリアに見えるかどうかが問題なんですよね。最終的な会計処理について,どのような書類を提出してもらえばいいかについてなど。そこをクリアできれば色々助成できることは出てくると思います(注:平成27年度第Ⅰ期東京芸術文化創造発信助成より,長期助成は一部改定され,「東京を代表する国際的な芸術団体へのステップアップとなる継続的な活動」も支援の対象になった)

今は,助成を考えた時に,実演団体の会計知識や能力が非常に問われると思います。申請書類では企業会計並の用語が容赦なく出てきます。言葉だけでなく,ある種の感覚が小規模の実演現場でのそれと乖離しているんですね。制作グループに頼ろうにも,そもそもそのような中間組織の数が限られています。扱われる対象もある程度名前が売れてからです。そこが助成する側とされる側の溝になっているかなと。それはどのように考えておられますか?

  そこは溝だと思います。そこをどう解決していくか,どうサポートできるか考える必要があるでしょうね。アーティストが書類を書いて申請して報告しているケースがあります。全部一人でやるとなると,それは負担が大きすぎるだろうと思います。

演者本人が書類を持って行きますよね

  はい。ここはハードルが高いですね,会計能力については。

業界に専門としての制作者が十分に存在すればいいのかもしれませんが,かといって制作者を迎える現状もまた実演家と同じで,身を削ってやっていかなければなりません。助成金でプロジェクトごとの赤字を部分補填してもらっても,事業以外での活動費の作り方も団体個々で独自に切り拓かなければなりません。それが上手くいかないために持続的な公演が困難になってしまうケースも多々あります。

  カウンシルの助成プログラムは基本的に赤字補填の発想ではないので,基本的には収益は問わないんですよ。さすがにコマーシャルなものは採択しにくいですが。また,制作面の課題として,1つの制作会社が何人もアーティストを抱えていて,それで申請しなければならない。でも,一申請者につき案件1件だけ申請可といったケース,カウンシルもそうですが,そうすると,どのアーティストをピックアップして申請するかという話になります。1つの申請団体が複数件申請できるような体制になるといいという話もちょっと聞きました。

微妙なところですね。

  難しいところです。申請・報告ができる制作者をどう育てるかも重要ですが,仕事になるかっていうと。逆に言うと,プロボノ(自らの職能を利用して,無償または定額によって行う公共的活動)みたいな形も可能かもしれませんね。プロボノのNPOをつくるのはいいかもしれないです。

結局,書類や申請の要件が理解できないことで助成申請を縁遠いものに感じてしまう人もいます。それが文化行政は私は関係ない,と言わせてしまう。そういう人が結構多いですねからね。

  助成プログラムのことでいえば,今のところは(助成金の額は)助成対象経費の2分の1(以内)です。同じ団体に対する助成はずっと続くわけではないので,丸抱えにすると助成対象期間が終わった時に続かなくなってしまいます。そういった意味もあって,その他の2分の1は自分たちで努力してもらえればと思います。(注:平成27年度第Ⅰ期東京芸術文化創造発信助成より,「東京の芸術創造環境の向上に資する活動」の場合,助成金の額は助成対象経費の3分の2以内になった)

助成される上で将来的には経済的に自立できるヴィジョンが求められているんだと思いますが,他方で小劇場の現場にいると,どんなに工夫しても活動の質からしてそれが難しい種類の取り組みがあるよう思うんです。ヨーロッパだと,ドイツやフランスではアーティストの最低保障制度があるようですが,最低保障があって,併行した制度としてステップアップの赤字補填の助成事業があるならいいのですが,このあたりのバランスが問題であるように思います。 まだ評価の確定していない団体に助成してく方針について先ほどおっしゃってましたよね。例えば,僕詳しくは知らないんですけれども,セゾン文化財団のフェローシップ,以前は個人のアーティストに一定の予算を提供するプログラムがあったと思うんですけれども,あのような助成のやり方は,東京都では難しいですか?

  個人に対してどう助成していくかは課題ですが,公金なので難しいです(注:平成27年度第Ⅰ期東京芸術文化創造発信助成から美術,映像と伝統芸能分野に限り、個人申請が可能になった)

おそらくアーティスト,特に個人のダンサーにとってはあのような助成はかなり助けられるでしょうね。

  そうでしょうね。奨学金みたいな形で助成するのは可能かもしれませんが。

民間だけでは件数も限られます。都主導で行うようになれば環境は大きく変わるかと。

  公金の助成と私財の助成は自由度が違うのではと思っています。ただ,セゾン文化財団の助成プログラムは本当に素晴らしいプログラムだと思っていて,そこの自由度の限界はどうしてもあるかもしれません。個人をどう助成してくかは課題ですね。というのは,美術・映像分野や伝統芸能分野の申請件数が少ないのは,団体で活動してるケースが少ないということも一因だと思っています。恒常的に,チームで動いているというよりは,その場その場で公演をするところがあって,結局個人の活動なのです,皆さん。だからそういう分野をどうサポートしてくかが1つの課題で,そうなると個人をどう扱っていくのかが,最初から課題になっている。そういう意味では,演劇とかダンスは,美術・映像分野や伝統芸能分野と比べて申請件数が多いです。それはやはりセゾン財団さんの助成プログラムの影響だと思います。助成の文化が根付いてる感じがしますよね,そういう意味では。

そうですか,それは意外ですね。

  例えばアーティスト個人でもちゃんと自分で会社,法人格つくっていたりします。そういう意味では進んでいるような気がします,他の分野と比べるとですね。伝統芸能などは助成を受ける発想自体がそんなになかったりもするし,音楽もそんなにありません。意外にそうですよ,でもそこは要検討だとは思っています。

「企画戦略事業」について教えてください。

  これは,色々なものが企画戦略の中に入っているんですね。調査研究,あとは海外ネットワークですね。例えばカウンシルフォーラム,これまでに2回開催しています。最初はブリティッシュ・カウンシル,国際交流基金との共催でアーツカウンシル・イングランドから企画戦略部長の方をお迎えして,アーツカウンシルをテーマにフォーラムを開催したり,今年(2014年)の2月はブリティッシュ・カウンシルに共催いただいて,イギリスからロンドン・オリンピックの文化プログラムで中心的に関わっていらしたディレクターなど3名お呼びしてシンポジウムを行いました。それと,シンクタンク的な要素も持っていきたいです。要するに,ある種の提言組織として機能していかなければならないというのがあります。まだ全然そこまでいってないですけどね。そういった意味で,調査研究はやっていこうと思っています。今だと例えばファンドレイジングの調査をやってみたり,あとは今活躍されているアーティストの方々にヒアリングして,今までのその経歴の中でどういったステップアップのプロセスがあって,そのときそのときで,例えばサポートがあったのか,あるいはどういったサポートがあったらよかったのかということをヒアリングして助成事業のスキームに反映させたりしていきたいです。

「企画戦略事業」でのリサーチが,助成プログラムや「パイロット事業」などに反映される形で機能しているんですね。

  そうですね。そういったものを適宜行っていきます。なるべく現場のニーズに合わせたプログラムを実施していきたいというのはとても強いです。ただ当然それとプラスアルファで,東京都から要請されるものもあります。

それもアーツカウンシル東京が担わなければならないんでしょうか。

  それは当然そうですね。東京都からの信頼感をどう得るかというところはありますから。信頼関係があってこそ,いろいろな事業が成立するところがありますから。そういった意味では東京都が抱える課題をサポートする,現場の課題もサポートするし,東京都の課題もサポートできるようにしていきます。

アーツカウンシル東京として,今,新たに試してみたいことや,やっていこうというような,具体的なアイディアみたいなものはあるんでしょうか。

  それはありますけど,ともかくオリンピックの件が大きいです。ただそれがさっき言った新しい雇用のチャンスみたいなものを,新しい仕事の仕方とか,このオリンピックのムーブメントを機会に探るということは当然あるし,助成プログラムに関しても色々現場の意見を聞きながらみんなで検討しながら使いやすいものにしていきたい,っていうのはありますね。


H25 オリンピック・パラリンピックと文化プログラム

ここまで現場側からの視点からお話してきましたけれども,アーツカウンシルを担っていく側として,現場の実演家に伝えたいようなこと,求めたいことでもいいんですが,何かありますか?

  アーツカウンシル東京は100%東京都からの公金で賄われているわけですが,東京都はなぜ芸術文化をサポートするかというと,東京都の都市戦略として,東京をどれだけ魅力的な都市にしていくか,対外的にも対内的にも,その1つの在り方として文化振興があります。そこを認識しておいてほしいという気はします。だからあくまでも東京都は東京都としてのミッションが別にあって,純粋に,ただただその芸術の表現をサポートしている訳ではなくて,それがどう,都市としての都や,都民に還元されるかとか,その街の魅力づくりに還元されるかといった視点がどうしても入ってくるので,そのあたりは自分たちだけの活動だけではなくてその周りとの関係性とか,そういったことを,意識しておいた方がいいんじゃないかと思います。それはアーティストの仕事なのか,制作者の仕事なのかはまた別ですが。カウンシルはちょうどそういった意味でその政策と現場の間にある立場なので。

橋渡しの。

  橋渡し。通訳という言い方をよくしています。芸術の現場の言葉と行政の言葉は違います。そこをどう繋げてあげるかが当カウンシルの役割ではないかと思っています。おそらくその機能は今までなかったのではないかと思います。行政側の人はあまり現場のことは知らないですし,世の中で芸術文化はあくまでone of themの分野ですから。広い社会の中の一つに自分たちがいるというのは,ちょっと自覚的であった方がいい気はします。迎合しなくてもいいけれど。というのは,観客創造といっても,例えば観客を\4000のチケットで2時間拘束します。そうすると,それがそのお客さんに対してどういう意味があるのかを意識しなければなりません。普通,人は2時間で\4000払って,自分にとってどんなベネフィットがあるかを判断します。だからその時に,例えば友達と食事をした方がいいと思うかもしれないし,ゲームした方がいいと思うかもしれません。その劇場なり芸術に触れる価値,それが自分にとってとても豊かな時間を過ごせるとか新しい価値を見いだせることなんだっていうことがちゃんと伝わるような,コミュニケーションがあった方がいいと思います。当然,ファンの人はくるけれども,それ以外の人がなかなか興味を持つきっかけってないですよね。

マニア以外の観客ですね。

  そこは,努力というか何かやりようがある気はしますが。他の,芸術文化以外の分野はそこをちゃんと考えて売り込んでくるから,逆に言えば。それは,コンペティター(競争相手)は,同じ劇団同士じゃなくて,そういう他業,異業種だと思った方がいいような気がします。飲食だったり,ゲーム,映画だったり。それがないとなかなか,先細っちゃうというか。「マーケット」に迎合すべきだとは思わないけど,知っておいたほうがいいと思います。林さんは,「マーケット」ってどういう風に考えているんですか?

少なくとも僕から見て小劇場の場合はマーケットと言えるような土俵が存在しているかも,よく分かりません。そういった視点から見たら限りなくサークル的な実態であるように感じます。そういうことに敏感な人は異分野で自分たちを売り出す方法を模索しているんじゃないでしょか。

  どっちがいいか難しいですね。ただ,バランスは重要だと個人的には思っていて,ある程度ビジネス的な側面を意識しながらやるのは悪いことではないと思います。ただそれでもクリエーションの立ち位置をしっかり意識していなくてはいけないと思いますが。例えばd-倉庫で,観客を増やしていこうとか,ひとつの経営目標としてはあるんですか?

d-倉庫自体はレンタルスペースなんで,その劇場に訪れる観客層も利用者次第ですが。別動隊の「ダンスがみたい!」の場合,観客開拓は重要な目標です。ですが正直に言って最近は行き詰っていますね。

  でもやはりそれは,なんかどこか突破口を見つけたいっていう感じは,現状としてはあるのですか?

そうですね。

  そこは,ある程度広がらないと。

閉鎖的にしているつもりはないんですが,アピールの対照を拡げつつ,やっていることの本質はそのままにというのが難しいんですね。

  どう開いていくかですね。

この分野の人間がずっと抱えている課題なんでしょうが。

  コマーシャルなものとアートの問題って永遠の課題ですね。

ただ,ここが変わらないとずっとこのまま…

  いわゆる労働環境は改善しにくいでしょうね。いくら例えば新しい雇用を生み出したとしてもやっぱりそこは難しい。

あとは業界の中で二極化してくような状況があります。

  コマーシャルなものとアートは分けて考えなくてもいいような気はしなくはないのですが。

先ほど通訳とおっしゃいましたけど,観客との間でもそういう通訳が必要な段階もあるのかと。そういう作業に長けた人がもう少し増えれば違うのかもしれないと思いますね。

  演劇も一気にテレビに出れば,マスの世界になってしまいます。それが悪い訳ではないと思いますが。

ダンスの方がよりマニアが多いような気がします。

  ダンスマーケットですね。

欧米の場合では,休日の楽しみ方として劇場という選択肢がより身近な形であるわけですよね。

  そもそもの文化的な土壌というか,生活の土壌がちがいます。

違う中でどのような立場を探っていけばいいのか。

  東京はやはり,娯楽がたくさんあるような気がします。東京は映画館はあるし飲食はあるし,カラオケはありますし。そういう意味ではコンペティターが多すぎます。土曜日,休みの日に何しようっていうときの選択肢が結構ある感じがしますが。

この間,ある方がコンテンポラリーダンスはスマートフォンと競争しているんだっておっしゃっていました。

  要するに,スマホでお金使うからですか。昔,ダイエーの中内会長が,携帯が出てきたときにそうおっしゃっていました。競合は同業他社でなくて,携帯だと。そういう発想をするんだとつくづく思いました。

劇場でしか得られない体験のようなことを,どのような形でアピールするかというところですね。足を踏み入れてもらうまでが大変。

  工夫のしようはあると思います。ライブは決して廃れはしないと思いますが。その場に行って観るという行為だから,音楽コンサートなど,そんなに動員は落ちてないと思います。人が同じ場所でなにか共感したいという思いは強い。ただ共感というところがアートの場合微妙です。問題を突き付けるケースが多いです。行って気持ちいい,ストレス発散とも違います。そこはちょっと違います。d-倉庫では近所の人たちと連携はあるんですか?

事業としてはないですね。もちろん付き合いはありますが。

  近所の人をちょっとご招待して観てもらうとか。

僕たちの主催でやってるものに関しては,傾向として実験的なものが多いですが,それが劇場体験の入り口として良いのか,すこし悩んでしまいます。若い方はいいんですが,基本的に年齢層も高めですし,そういう感覚があるんですよね。

  やってる側にもあるのですね。

そういう消極的な面がありますね。

  「面白いことやってるのね」って言われるかもしれないですけどね。実験的にやってみたらどうでしょう?それで普通の人はそれに対しどう反応するかっていうところで。それはパイロット事業的ですね。もしかしたらすんなり受け入れられるかもしれないですし。そしたらそういうところを,広報で呼びかけていけばいいわけですし。住宅というか街の中にある施設ですし。面白いですね。利賀とか行くと,田舎のおじいちゃんおばあちゃんが鈴木(忠志)さんがやっているような実験的な芝居を観て,ああ今回はちょっとどうだったとか,面白かったねとかつまんなかったとか言いながら帰る光景を見ると,やっぱり人って慣れてくるもんなんだなって思います(笑)。

内容を語り合うほどに (笑)。

  そう。なんか面白いです。やり様はあるような気がします。例えばそういう話を,現場の人としていて,例えばそういう観客創造のプログラムをどうしたらいいかっていうのをアーツカウンシル東京の「パイロット事業」でやるとか,そういう風にしていきたいですよね。そういった意味でトライ&エラーでもその現場に意味のあること,どこかブレイクスルーできるようなものっていうのを,探していきたいと思います。

最後に,設立前の評議会で平田オリザさんが,「最終的には東京都の文化予算については全部ここで執行する」ところまで行きたいっていうようなことを…

  みなさんそういう風におっしゃいますよね。

そこまで行きたい,独立した形に持っていきたい,というような意志はやっぱりあるんですかね?

  それはなんとも言えません。

一概には言えない?

  理想的にはそういう話もありますが,東京都がどう考えるかですね。実務的にそれが可能かと言うとそれはそれでハードルは高いような気がします。ただ,オリンピックが終わってどういう組織であるべきかについては,議論の余地があるかもしれないですね。その時に,例えば独立してどういう組織になっているかみたいなところは,ある程度意識していかなければならないかもしれないです。

わかりました,ありがとうございました。

 


[artissue FREEPAPER]

artissue No.004
Published:2015/01
2015年1月発行 第4号
 
論考・OM-2 原田広美
     『人一人の「脱構築」から「社会と演劇」の創造的変容を夢見る 「OM-2」の作劇法』    

Another point of view ~芸術を取り巻く環境~
     日本版「アーツカウンシル」のそもそも論

       interview with 石綿祐子 アーツカウンシル東京・プログラムディレクター


 
「ライバル誕生,川村美紀子とスズキ拓朗」 志賀信夫
「想像力に直接働きかける政治性」 芦沢みどり
あらかじめ解釈を放棄する自由を観客は与えられている 宮川麻里子

 
「むしろ後衛であること」 寂光根隅的父/双身機関 主宰
「切創だらけ,酔ひ酔ひと」 恒十絲/IDIOT SAVANT 主宰