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池袋が発信するハイアートの磁場を鳥瞰する

藤原央登 劇評家




 東京芸術劇場の主催で、9月に「God save the Queen」という企画が行われた。演劇ジャーナリスト・徳永京子のセレクトによる、若手5劇団のショーケース。企画タイトルの和訳「女王陛下万歳」通り、5団体すべての主宰者は女性。当日パンフレットに徳永は、「どうしても多くの人に紹介したい才能」が、図らずも「全員女性」だったと記している。多方面に宣伝がなされ注目を集めた企画であったが、内実は低調なものであった。

 最大の原因は、コーディネーター・徳永の企画意図が不明瞭だったことに起因する。参加劇団の女性主宰者たちは、男よりも「過敏にならざるを得ない」自意識の鎖から自由になり、「劣等感も優越感も出発点になく、叙情に溺れずヒステリックにもならない」「時代を更新する」人物たちとパンフレットに記されてはいる。とはいえ、旧来の女性像とは違った視点を持っていると紹介された各作品を見渡しても、女性を批評的に捉え、問題を突きつける作品はなかった。まっとうな物語、ジャンル横断的なパフォーマンス、ナンセンス喜劇と、その上演もばらばらである。ならば、20分しかない時間にいかに劇の文体を示し得たかが評価基準となる。その視点に立てば、日常が断絶される悲劇をファンシーに且つ劇画的に表出する「うさぎストライプ」(大池容子)が順当な成果を挙げたと言える。

 とまれ、問われるべきは5劇団をひとつにまとめた徳永の意図である。その理由を演劇状況の中に位置付け示すことが、キュレーターの役割ではないか。主催者側の「読み」があってはじめて、受け手は応答することが可能なのだ。そのような土台がなければ、企画自体が力を持たない。言葉通りのショーケース以上のものがなかったのはそこにある。したがって、どうしても個々の作品評にならざるを得ない。団体によってはかなり手ひどく非難されたが、彼女たちだけが批判されるのは酷というものである。公共劇場の企画に借り出され、細切れの作品を上演させられたのだから。それを徳永が自覚していたのなら、非難から彼女たちを守るべく、もっと言葉を尽くしたことだろう。しかしそうはならなかった。本企画には、全体を通して何かを批評する、あるいは新たなタームを提示しようとする意思と力が欠けているのである。思想が伴わない企画なら、我々は与えられるものをただ消費するだけで、何が演劇なのか何がアートなのか、根本的な物事が皆目分からないままである。

 このような上辺だけの気分が、ハイアートを巡る今日の状況に蔓延している。その中心にいるのが、東京芸術劇場が建つ池袋だ。今や芸劇は、国内外の最先端の舞台芸術が一同に介する「日本最大の国際舞台芸術祭」=F/T(フェスティバル/トーキョー)の中心的な場所として、ハイアートの殿堂のごとき権威を獲得している。東京都から多額の補助金が投入されているが、それはオリンピック招致の役割も担っていた。その力を背景に、F/Tは巨大なマスへと変貌してはいまいか。そうだとしたら、社会を批判/批評すべき文化が、資本および国家に回収されていることになる。意図不明の「God save the Queen」も、その一種として私には感じられた。

 私にとって前衛とは、そのような場から距離を取り、無批判で受け入れる態度を取らないことである。