interview no.100 野火杏子
 


    何故、インド舞踊を選んだのですか?

子供の頃から日本舞踊を習っていて、師範を取り教えもやらせていただいていましたが、もともと踊ること自体が好きで、これまでにいろいろな舞踊を習いました。ジャズ、モダン、バレエ、スペイン、韓国、中国など。 その中で、インド舞踊が最も難しいように感じ、追い求めていくうちに今に至っています。 また、私が始めた当時、日本におけるインド舞踊人口が極めて低く、スペイン舞踊も魅力的でしたが、 少数派を選びました。そのことで苦しいことも多々ありますが、使命の場所と決め、続けさせていただいています。

    インド舞踊をやっていて良かった事は何ですか?

インド舞踊は、大変多様で、地方、宗教、民族などによって異なります。 私が続けているBharatanatyamは、東南インド カルナータカ州、タミルナード州を中心に発展したものです。ほとんどのインド舞踊がそうであるように、この踊りもヒンズー教の神々を讃えるもので、宗教的哲学的基礎が厳然とあり、それを学んで行くことが必要です。また、伴奏のカルナータカ音楽は、日本の学校教育で慣れ親しんで来た西洋音楽とは異なるもので、リズムも旋律も大変多様かつ複雑です。そして、肝心の動きは、中腰姿勢を維持しながら、裸足で複雑なステップを踏み続けるといった過酷なもので、これまで見たことも聞いたこともないものでした。  このように、学んでも学んでも、練習してもしても、いつまで経っても未知なことばかりという飽きない道が続いていることが、出合えて良かったと、つくづく感じることです。

    インド舞踊を続けていて、嫌だったことはありますか?

やはり、日本においては少数派で、認知度が低いため、仕事にならず、お金に結びつかないので、苦しい日々です。 それでも止められず、何をおいても最優先してきてしまったので、周囲には迷惑を掛けっぱなしで、申し訳ないと思いながら、益々固執していってしまう自分が嫌だな・・・と思うのですが、今となっては他に道はありません。 といって、極めるには未熟過ぎますし、半端に耐えるのが大変です。

    今、一番熱中していることは何ですか?

Bharatanatyamの独特の動きは、インド人の独特な体型やリズム感から生まれたものなのだろうと感じます。日本人のものとは相当違いますし、また西洋のものとも違う。安易に、和印の折衷を選ばず、あくまでもインドに迫る日本人の苦闘を生き抜くことが、今一番面白いというか、嵌っていることです。

    今後の活動は、どうして行きたいですか?

30年間、日本におけるインド舞踊の普及と、インドの方々との文化交流を主眼において活動して来ました。 これからも、それは変わりありませんが、今後はそれに加え、自分の成果発表もしていこうかな・・・と考えています。もちろん、発表するにはおこがましいほどの成果ですが、自分の中で中間結果を確認して行きたいと思うようになりました。漠然とした達成感では、更に積み重ねて行く上で脆すぎると思い至りました。

    先行き創作活動も考えていますか?

創作は、これまでにもかなりやってきました。また、やりたいと思うこともあるとは思いますが、 今は、インド舞踊にもう一度新たな気持ちで挑みたいと思っています。具体的には、私の師匠であるMs Uma Raoの振り付け作品を主体に、再度踊りなおしながら、自分のなすべき方向を探ろうと思います。 師が表現しようとするシヴァ神や、ヴィシュヌ神、その他の神々を再考することからです。

    好きな神様はいますか?

ヒンズー教は多神教なので、すべての神々でひとつの宇宙、真実なのかもしれません。 Bharatanatyamの舞台の上手には、シヴァ神の像を置きますので、シヴァの踊りは多いと思いますし、好きです。雄大で力強いものが多いので。シヴァは宇宙そのものであり、破壊の神でもあるので、壮大で抽象的な気分をMAXにして踊ることが多いです。 ヴィシュヌ神は、クリシュナ神とラーダの物語を踊る場合、ラーマの物語を踊る場合・・・と姿を変えて行くので、一概には言えませんが、Dashavataraは大好きな演目です。10の化身を演じるので大変ですが、踊る度に多くのことを考えさせられます。今の社会の問題や細かい自分の生活のことなども含めて。 クリシュナ神とラーダの踊りは、恋愛がモチーフなので女性にとっては感情移入しやすい踊りだと思います。ですから、神々の表現ではなく、自分になってしまう時があるので、そういう意味で低俗に堕ちないようにするのが難しいと思います。本当に涙を流したり、顔が赤くなったりする表現は、インド舞踊では最高の表現と言われますが、うっかりすると自分のストレス解消で泣いてしまったりすることもあり、これはいくらなんでもNGだと思います。  結局、どの神様も自分にいろいろな課題を与えてくださるので、好き嫌いというより、神々に他ならないのだろうと思います。神になろうとする芸能は、たぶん神楽もそうなのだと思いますが、尽きることのない楽しみを神々が与えてくれているものなのかな、と感じます。




次回公演



野火杏子

『シヴァ神に挑む』
日程 > 3/12(水)
email > send
  3/12
20:00


 
 
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