いつもどのような演出、作り方を心がけていらっしゃいますか?

A:私は歌舞伎などの伝統的なものは別にして、均一で、型に押し込めたものは好きではないです。作り物ではない、その場で心が動いている、人間らしい人間がいる舞台が好き。あとは、「出会い」ですね。シェイクスピアをやると、あの時代に、私たちと同じか、私たちよりもっと色濃い感情を持っている人たちがいるということが分かるし、かつて生きていた人がどのように世界を見ていたのかがそのまま残っていることが分かる。
つまり、今を生きる俳優とかつての作家が書いた言葉との「出会い」です。もちろん現代劇の作家の作品でも同じことで、作家の人生と俳優の人生の「出会い」。そしてそれはミュージカルも一緒で、作詞家と作曲家と編曲家との「出会い」。「出会い」とはつまり人生がクロスする、ということです。それぞれの人生がクロスするときに画一化されたやり方はありません、「出会い」は奇跡ですから。「出会い」を大事にする、やわらかで、自由で、大きな可能性をもった作り方をしたいと思っています。

「出会い」を大事にする作り方、についてもう少しお聞かせください。

A:もちろん演出プランは立てていきますが、メンバーによって起こることは毎日、毎回、違います。思い込みを強くせず、私自身がきちんと「出会える」自分であるように準備して稽古場に行くようにしています。演出しているその場で的確な言葉が出てくるような体調や精神状況であるように。稽古場で見てみたら自分の演出プランと真逆になることはたくさんありますし、俳優からからそういうものが出てきてほしい。自分の思い通りになってしまうことほど面白くないことはないですね。あとは“愛情をもって、ものすごく近づいて凝視する、物事をえぐって見る視点”と“俯瞰する視点”の両方を同時にもつことはいつも頭の片隅にあるかもしれません。

出演する俳優に求めることについて教えてください。

A:演技は、広く流布している演技のパターンだけでもいくつもあるし、出会う戯曲や演出家によっても全然違う。だから、私は俳優には自由であること、そして体力と知力があることを求めています。知力に関しては、知らないより知っているほうが良いですし、体力に関しては、自分の声や身体を操れるのが望ましい。つまり、準備ができているということですね。いつも何に対しても準備ができていて、開いていること。

石丸さんは稽古場でよく声と身体のお話をなさいますね。

A:身体が変わると、声も変わる。立ち方ひとつで声は変わります。というのも、脳が指令しているより、身体が感情と結びついて作り出していることがすごく多いと思っていて。自分が本当に腹が立ったり泣いたりしたときにどんな声が出るのかは、声とアタマだけで記憶しようとしてもだめです。逆に身体で、自分の身体のどの部分がどのようなけいれんを起こし、力が入るのか、もしくは脱力するのかをマッピングできていれば、それは再現可能になります。確かに人間だから体調が悪い日などもありますが、演劇は何度もやらなければなりません。毎回必ず一定のレベルのものを演じるにはそうした技術が必要になってきます。

 

今回は『夏の夜の夢』の舞台稽古風景をそのまま作品の設定になさいました。そして劇中でも「見る」ー「見られる」というモチーフが登場しますね。

A:私はいつも演目を選んでから「ああ、だから今回私はこの演目を選んだのか」ということを感じることがあります。今回劇中劇にする『夏の夜の夢』を読み直すと、戯曲の中で「目」について色々言及されていることに気づいたんです。そして、舞台稽古風景という面では、私たちは見られている商売で、自分の心も身体も人の「目」にさらされて生きていくしかない人種であることが浮き彫りになります。その点がつながって、いけるな、と思いました。“演劇の神様”なんて歌詞を自分で書く日が来るとは夢にも思っていなかったけど(笑)。でも、劇中で言われている「見られているから、嘘はつけない」というのは、私が俳優をやっていた頃から本当にそう思っています。

タイトルもずばり『EYES』ですね。

A:『EYES』は舞台稽古の様子を演じているわけだから、舞台稽古をリアルに考えたら客席には誰もいない設定です。でも本番にはお客さんの「目」が沢山あるというのも面白いかなと。演劇を愛している人にはぐっとくる作品になると思います。出演する俳優は、まだミュージカル界の縁の下の力持ち的な場所にいる人たち。その人たちが長時間自分の心と身体でこの舞台を支えなくてはいけない、というリングにあげられるわけです。お客さんがその俳優たちに「出会い」、一人一人に「目」移りできるように、そして彼らの今まで掘り起こされなかった魅力が舞台に出てくる作品にしたいと思っています。


 SHIMADA STUDIO

『EYES』

10月
12日[金] 19:30
13日[土] 14:00/19:00
14日[日] 14:00/18:30

《チケット料金》
全席自由 3,500円

台本・作詞・演出
石丸さち子

作曲
伊 藤 靖 浩

出演
井上陽子
菊池ゆみこ
舩山智香子
村上桃子
飛鳥井みや
中谷弥生

鎌田雅樹
梶雅人
溝渕俊介
岩田国大
川口大地

伊藤靖浩(Pf./Mb.)
米重美文子(Mb.)
石丸さち子