山田せつ子 Setsuko Yamada

明治大学演劇専攻に在学中、笠井叡が主宰する舞踏研究所「天使館」に参加し、即興ダンスを中心に学び、独立後ソロダンスを中心に活動をする。舞踏から生まれた日本のコンテンポラリーダンスの先駆けとして、国内外で活動する。89年に「ダンスカンパニー枇杷系(BIWAKEI)」を主宰し、ユニークな作品作りをダンサーとともにおこなう。00年より京都造形芸術大学映像舞台学科教授として学生とともにダンスの荒野を歩く。
最近の作品『薔薇色の服で』『Blanc〜ササヤイテイル ツブヤイテイル』
著書『速度ノ花』(五柳書院)

official web site 
http://setsuko-yamada.com/


   今日はまじめにダンスの話を聞きたいと思います。とっても長く踊ってきておられると思いますが、最初に最近の活動について教えてください。
 ダンスがどういうふうにして生まれてくるかということが、私自身の関心の中心であることもあって、いろいろな試みをしてきました。最近のソロダンス『薔薇色の服で』(吉祥寺シアター)は、言葉のテキストをたたき台にして構成を組み立て、自分自身も舞台で初めて発語するということをしました。声というのは恐ろしい身体なんだなあと思いましたね。劇団「地点」との共同作業では、ジャン・ジュネのテキストを読む俳優と一緒に踊るということをしてきましたが、三度目の『トラデイシオン トライゾン』(シアタートラム)で、演出を入れず、俳優の安倍聡子さんと幾つもの実験をして作り、とても面白かったです。凄く距離がある存在でありながら、共犯者である。まだまだ、いろいろ探しだせそうな気がしているところです。
 
グループ作品では『Blanc ササヤイテイル ツブヤイテイル』(スパイラルホール)が一番最近です。スパイラルホールの空間を美術館に見立てて、フランスの美術家クロデイーヌ・ドレの作品を展示し、彼女の作品の世界とダンスが交差し、更に美術作品の映像が時間を捻っていくようなことを考えて作ったものです。ダンス作品を作るとき、舞台美術ってなんだろう、必要なんだろうか、必要ならどう必要なんだろうと思って、美術とダンスがダイレクトに浸食しあうようなことをしたいと思って作りました。クロデイーヌの作品は、繊細ですが、様々な場所や状況のイメージを喚起するものだったので出来たと思います。





即興のダンスから始められたそうですが即興ダンスの魅力はなんですか。
 即興で踊ると言っても、即興ってなんだろうといつも思いますが、私にとっての魅力は、常に時間が動いているということかもしれません。時間はひとつの方向に流れているようで、実はものすごく細かく振動していて往復したり、渦になったり、交差したりしていると踊っているときに感じます。そういう時間性のなかで踊ると思いがけないことや、予定不調和なことが生まれてくる。からだがかってに話しだす、話しだしたからだに聴き直す、黙らせる、いろんな知覚が総動員で働きだすのを観察する。これは楽しい。いろんな楽しみがありますが、知覚が充分に働かないときは、何をやってもだめですね。必ず予定調和のほうにすべっていってしまう。
 
昨年、新井英夫さん白井剛さんや鈴木ユキオさん、安次嶺菜緒さんたちと169分即興で踊るという公演『オドル/反復/169分』(日暮里サニーホール)をやりましたが、とても面白かったです。最後、からだが疲れてきて、どうでもよくなってきてしまったりすると、からだって、笑いだしたりするんですね。からだを支えていた軸がパラパラとそれまでと違う方向に向かいだす。その時、がんばって制御していかないで、そのパラパラに乗って面白い〜という所で終わってしまったのですが。あの先はどうなるんだろうか。またやってみたいなあと思います。


コラボレーションもたくさんしていると思いますが、どんな面白いことがありましたか。
 コラボレーションというか、ミュージシャンや美術家の方がたには本当に鍛えられました。フリージャズの人と最初にセッションした時なんか、最後の5分しか踊れなかった。でも、最後の5分踊ったのを私は勲章みたいに思っているんですけど。そのぐらい、からだが入るスキがなかった。それでやっぱりからだも楽器みたいになりたいなあと思ったりしたわけです。美術の方との共同作業では、作品を作るってどういうことかを考えるきっかけになっていったと思います。即興で踊りはじめ、作品を作るということがどういうプロセスなのか、まったくわからなかったですから、空間への考え方、物質の持つ質感が何を生み出すか、ひとつひとつがおおきな体験でした。装置ではないので、ダンスに都合いいとか、有効かとかではなくて、そこに在るものと踊ることがどうなっていくのかを見つけだして行く作業とでも言えるかな。物に質感があるように、その物とコンタクトするからだの質感を見つけだして、ムーブメントと繋げていくというということは発見でしたね。





2月には振付け作品も公演されましたが、どうやって作っていますか。
 作品を観てくださった方に、どこまで振付けでどこから即興なのか、という質問をされることがあります。基本的にかなりかっちりとした構成で、振付けも細かいです。どんな作品にしたいという方向が決まったら、ダンサーのからだを粘土みたいにして作業していきます。この作品の方向だったらこういうからだの使い方をして、こういう空間性や時間制を出すダンスが見たいとか。自分が見たい世界を少しづつ探っていく。ダンサーにいっぱい実験してもらったり、私が踊って、こういう世界を〜と知ってもらったりする。だからすごく時間がかかるし、それをいやがらないダンサーじゃないと一緒にやれないということはあります。私自身が探っているんだから、ダンサーがまずわかるわけがない。わからない時間をともにしてくれるダンサーは有り難いです。すべてが霧の中みたいな所から、言葉やからだ、総動員して振りを見つけだそうとします。振りを見つけ出しても、身体を支える呼吸ひとつで、リズムやムーブメントのニュアンスはすごく変わる。ダンサーにはリズムを歌いながら稽古してもらったりします。そうすると、私の思っているリズムとダンサーが解釈しているリズムの違いなんかがはっきりしてくる。そんなことを繰り返していって、構成や振りがダンサーのからだに入ってきたら、あとはダンサーが作品の世界観をどこまで生きることができるかということですから、細かな対話が続きます。そうして行くと、結果、振付けなんだけど、即興のようになっていくように思います。振付け家とダンサーで作品を作る場合、もちろんダンスはその間に生まれると思うけど、私の場合はそれが少し極端な形であるということかもしれない。


この夏はどんな予定ですか。
 8月11日に『ダンスがみたい!14』でソロとデユオを踊ります。相棒は安次嶺菜緒さんです。169分踊った時に、彼女とデユオを踊って大胆ですごく面白かったので、2度目の挑戦です。彼女は私の首根っこを掴んで踊っていましたが、そんなことをされるのは嬉しいものです。この夏は即興のソロばかり4回ほど踊ります。なんだか、ただ、踊る!というのをしたい気分なのです。


 ダンスがみたい!14 ~崩れる身体
山田せつ子 『キザハシデオドル』
8月11日[土] 開演19:30
会場 d‐倉庫
※同日に安次嶺菜緒さんの公演もあります。
また、山田せつ子さん・安次嶺菜緒さんのソロ作品終了後に二人のデュオ作品があります。


>>>「ダンスがみたい!14」公式サイト