姿勢は正したままでくずすことなく座っている。時おり言葉に詰まりはするのだが、その際も目を閉じることもなくじっと前を見据えたまま考える。腕を組むことも、膝を組むこともしない。
 
今回は3月にここ日暮里d-倉庫にて行われる「日韓アートリレー2012」に出演する「OM-2」の俳優、柴崎直子さんに話しを聞いた。


 「日韓アートリレー」といえば、一昨年ムーブ町屋とd-倉庫で行われたのが記憶に新しいのですが、今回はだいぶ趣きが違うみたいですね。

 そうですね。韓国を代表する前衛劇団、「劇団チャンパ」と「OM-2」が共同制作をすることとなりました。両劇団の演出家を交換して作品を作るという、これまでの「日韓アートリレー」にはない新たな試みです。


演出家を交換するなんて、面白そうな企画ですね。では皆さん、日本と韓国を行ったり来たりしているのですか?

 
いいえ、実際に行き来するのは両演出家のみです。「OM-2」の真壁は韓国へ行き、「劇団チャンパ」の演出家チェ・スンフン氏は来日して、それぞれ現地の俳優と作品を創っていく形です。


なるほど。外国の人との共同制作にあたって、戸惑いや気負いはありますか?

 
外国人だから、という理由で特に戸惑ったり、気負ったりはないですね。国籍は違いますが、それ以前に、私達は演劇を通して、自己や社会と向き合おうとしている同じ人間だと思うので・・。そういった関係の上で相手と向き合いたいですね。韓国人対日本人というのではなく・・。もちろん、生まれ育った環境や文化も違いますから、モノの感じ方や捉え方に違いはあるかと思います。でもその違いは、“国の違い”が背景にあるとはいえ、結局は“個人の違い”というところなのかもしれません。でも、違うからこそ一緒に創っていく意義があるのだと思います。


違う“個”と“個”が出会うからこそ、共同制作する意義がある、と。

 
そうですね。だけれど実際には、モノの感じ方や価値観はいろいろ違うはずなのに、なぜか皆同じような顔で泣き、同じような声で笑い、価値観すらもパッケージ化されている気がします。みんな同じようなものを決められた範囲、社会のなかで流通している価値観の中で選ぶんですよね・・・それは他より突出して攻撃されないようにと備わってる動物の本能というか、人間社会を安全に営む為の術、かもしれませんが・・。そういった、社会を安全に生き抜く為の術を捨てた、価値観も体も日常に流通しているような常識とは無関係の“個”と“個”が出会った時に何が起こるのか、何を創るのか。価値のある共同制作とは、そこから始まるのではないでしょうか。


柴崎さんは、いつもそうやって誰かと作品創りをするのですか?

 
はい、と言いたいところですが・・。なかなか難しいですね(笑)。それはそういった作品創りが難しいというのではなく、もっとその手前の問題で・・。その“術”を捨て去る事も簡単ではないですが、それ以上に“安全に生きる為の術”または“それ有りきの体”の存在に気付くのが困難だ、ということです。注意してるつもりでもダメですね、いつも多くを見過ごしている現実がある・・。例えばいま話している時もちょっとした違和感を感じながらも笑顔を浮かべていたり、そんなに深刻でも無いのに眉間にシワを寄せてたり・・・・これはあくまで簡単なそして表面的な例ですけど、その術がいかに体に染みついてしまっているか、気づかぬうちに自分の体の一部になってしまっているか、という事かもしれないと思います。


どうですかね?・・その術とは、例えば流行っていても、センスの良くないファッションだなあと感じていても「素敵だね」とか言ってみたりむしろ買って身につけてみたりするコトってありますよね、そういったことも含まれますか?

 
うーん、保護色みたいですね。その例えで言うならば、そのセンスの価値観がどこからきているのか、ということについてやっぱり考えますね。流行だから良いと思うのか?逆に流行ってないから良いと思って、流行から外れる自分を演出してるつもりなのか・・。その価値観が社会の中で良しとされているものの上に成り立っているだけに過ぎないのであればその価値観すらも、あくまで周りから攻撃されないための“一般社会の常識”なんじゃないでしょうか・・。


どうしたら、そういった“術”に気付く事が出来ると思いますか?

 
そうですね・・。やはり、日常のあらゆる事を疑ってみるところから出発するしかないのかもしれないですね。特に当たり前と思っている事こそ疑いの目を向けてみる。すると、その“術有りきの体”も自分だと思い込んでいるのでしょう、あまりに当たり前過ぎて、疑い方すらわからなくなる・・。それでも自分で判断する。そしてその判断について責任をとろうとする。・・そんなことの繰り返しかもしれないですね。





なんだか難しそうですね・・。行き詰ったりしないですか?

 
もちろんしますよ。行き詰りの連続です。でもだからこそ、何かを求めて事を起こし、その先にいける可能性があるのではないでしょうか。そういった意味では、行き詰りが無くなったら終わりですよね。・・自分で話していて勇気が出てきました(笑)。


わかります(笑)。・・それはそうと公演チラシを拝見しましたが、世界、もしくは社会が抱える問題がテーマなのでしょうか?

 
もちろんそれらと繋がっていると思うのですが、どちらかというと“個人が抱える問題”がテーマだと思っています。


・・どういう事でしょうか?

 
チラシにもありますが、“我々の身体は社会の問題そのものを内包し生きている”ということなのかと。自分の問題が世界の問題を生む、というか、自分の問題と世界の問題はイコールというか・・。例えばチェ氏の台本に“人間は自身も知らないうちに虚構、うわべだけの知識と教養、無価値な対立、物質への貪欲と耽溺、不平等、偏見、傲慢、無感覚、無気力などの伝染病に汚染されている”という一文があるのですが、私もそうかもしれません・・・。


伝染病に汚染されていると?なぜそう思うのですか?

 
まずは、先程お話したような“伝染病に汚染されている”という言葉に初めはピンとこなかったことです。そのことについて皆で話していくうちに、その言葉が直に自分に響いてこなかったこと自体が“無感覚”ということだと痛感したんですね。例えば“偏見”についても、一般常識の中での“偏見”については意識しているつもりですが、一般に“偏見”とはみなされていないけど“偏見”している場合も多いのではないかと・・。一般常識の中で考えるに留まるとあっという間に見過ごしてしまう、正に“伝染病”に侵されてしまうと思うんですね。・・怖いですよね、ただの病でなく伝染病ですから。常に自分の目で見て考えて行かないと、自己防衛のためにあっという間に周りと同化していく、“伝染”していくでしょうね。


その話は、なんだか先程の“安全に生きる為の術”と似ていますね。

 
そうですね。常に自分の頭で考えることをしていかないと、あっという間に流されてしまうでしょうね。社会の“普通”に頼らず、常に疑問を持ち、自分の目で見て考える作業を続けていくこと・・・・・。命があるからただ生きているのではなく“人間として生きる”とはそういうことなのかもしれないと思います。そして“生きている人間”が増えていく程、世界も“生きて”いくのではないでしょうか。命を繋ぐだけの人間が蔓延している世界は死んでいるけど、“生きている”人間が一人でも多く増えていくほど世界は“生きていく”んじゃないでしょうか。


・・そんな風に話す今の柴崎さんが舞台の上で出来ることって何だと思いますか?

 
先程もお話ししたように、私は多くの“伝染病に侵された人間”の一人だと思うのです。人間らしく生きなければいけないと思いつつ、怠慢から抜け切れず、世の中の常識とも決別しきれないような・・。そんな“世界を死に追いやる”存在の一つかも知れない自分が、少しでも多くそのことに気付く。そしてこれまでの自分の生き方と格闘する。社会を生き易くする為に身体に備えてしまった無感覚を少しでも解放しようとする。常識とは無関係の何かを創造しようとする。・・そんな風に“人間として生きていこう”とする姿を晒すことかも知れないですね。それを見た“伝染病に侵された人間”が少しでも自分の汚染と、それによって“死んでいる世界”に気付く為に・・。


その為には、どんな稽古が必要だと思いますか?

 
そうですね・・。稽古場での実際の稽古より、それ以外の時間をどう過ごしているかが重要な気がします。どの角度から物を見ているのか、何を基準に物事を判断しているのか・・。そういった意味では、稽古場での時間をどう過ごしているのかも重要ですね。実際の稽古に関しては、私自身これまでの稽古のやり方に疑問が出てきていて、新たに模索中なのでなんとも言えませんが。基本は舞台上でやることとあまり変わり無いのではないでしょうか。ただ稽古について思うのは、誰かに自分にとって本当に有効な稽古方法を教わることは出来ないだろうということです。例えば車で道に迷っている人に、歩いていく行き方を教えても有効ではないかも知れない。道が狭かったり、一方通行だと通れない・・。情報としていろんな人に稽古について訊くのは良いと思いますが、地図と同じで、今自分がどこにいるのか、目的はどこなのか、客観して見ないと分からないと思います。そういった意味では、自分の稽古を知るという作業もとても重要だと思います。
 今回もどんな地図が描けるのか、楽しみです。


柴崎さん、インタビューありがとうございました!





■ 日韓アートリレー2012」コラボレーション企画
『チェ・スンフン×OM-2「希望」 真壁茂夫×劇団チャンパ「一方向」』 会場/d-倉庫


【タイムテーブル】
チェ・スンフン×OM-2「希望」
2012年3
14日(水)
15日(木)
19:30

真壁茂夫×劇団チャンパ「一方向」
2012年3
19日(月)
20日(火・祝)
19:30


【チケット料金】
前売一般 ¥2,500 前売学生 ¥2,000
当日    ¥3,000 当日学生 ¥2,500
セット券   ¥3,800

【チケット取り扱い・お問い合わせ】

info@om-2.net


OM-2」Website